えぼぐの神様N

毛羽毛現 ―災厄振りまく希見の旅人― ( 北陸オカルト会:妖怪解説 )

大空を飛び回りたい。

ひょっとしたらこれは、常に重力によって

地上に縛られている私たちの根源的な欲望ではないだろうか。

 

その欲望を叶えるべく、人は法則を発見し様々な分析を行った。

そして、1903年ライト兄弟はとうとう

「空気より重い機械に乗って、空を飛び回る」という

一見矛盾したようにも見える偉業を成し遂げた。

 

そして時は経ち、現在は2019年。

飛行機は科学者だけのものでも、資本階級の物だけでもなくなった。

もしかしたら、空を飛んだ事がない人の方が少数派かもしれない。

 

そういえば、筆者は航空力学に明るいわけではないが

「飛行機が飛ぶ原理ははっきりとは解明されていない」という話がある。

詳しい説明は避けるが、今まで飛行機が動く原理とされていた法則に

根本的な誤りがあった、というのである。

 

それでも、飛行機の事故率は0.0009%。

日数に換算すると8200年間毎日飛行機に乗り続けて

事故に合うかどうかという程度の確率である。

 

飛行機は今日も飛ぶ、謎を孕みながら、

それでも、飛ぶものは飛ぶのだからしょうがないのである。

 

 

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毛むくじゃら

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今日紹介する妖怪は毛羽毛現(けうけげん)、読みづらい。

じめじめとした暗い所、湿った所に住むという特徴からか、

目撃したという話も少なく滅多にお目にかかれない妖怪である。

 

そのため名前の漢字は希有希見(読みは変わらず)と記載されることもある。

西尾維新のキャラみたいな名前である

 

この妖怪は特性上、人の家の湿った場所に住み着く事もある。

大変珍しい妖怪がたまたま住み着くという

宝くじに当たるような確率を引いた家の住人は

調子が悪くなったり、軽めの病気を患ってしまうという

地味なダメージを毛羽毛現が出ていくまで受ける事になる。

 

珍しさに比較して何とも地味な嫌がらせである、本当お前何なんだ。

 

或いは、家の中は清潔に風通しよくしようという

戒めの為に生み出された妖怪なのだろうか。

 

 

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鳥山石燕は、この妖怪の解説文の中で

惣身に毛生ひたる事 毛女のごとくなれば」という文を残している。

(その体には、毛女のように毛が生えているくらいの意味)

 

この「毛女」というのは、元々秦の始皇帝に仕えていた人で

秦が滅ぶと共に山の中へ落ち延びた。

 

食べ物もない過酷な環境でその人は谷春という道士に出会い

松の葉を食べて生き延びる術を会得。

あんなトゲみたいなものにしなくても他になんかこう…。

谷春はもしかしたら割と外道なのかもしれない。

 

そんなこんなで、松の葉暮らしを続けている内に彼女は仙人となり、

空を自由に飛べるほど身軽な体と、170年余の寿命を得た。

 

そして身体中から毛が生えた。

 

原本となる「列仙伝」の中には毛量に関する記載はなかったが

鳥山石燕の見解では、人間社会に戻るのが不可能な位の体毛が生えたと思われる。

 

ムダ毛は本体に対して無駄な毛だからムダ毛なのである。

ムダ毛が本体だったら無駄なのはむしろ残った人間性の方であろう。

 

人が空を飛ぶ2000年ほど前、紀元前に空を飛んだ人間へ与えられた罰は

早すぎる法則への反抗に与えられた神罰なのだろうか。

 

 

彼女の間違いはもしかしたら「松葉でも食ってろ!」

と言わんばかりの谷春の提案を呑んでしまったことなのかもしれない、

やはり谷春は外道。