えぼぐの神様N

件 ―神か妖怪か、件のみぞ知る― ( 北陸オカルト会:妖怪解説 )

SFチックな一説によれば「予言」とは、即ち未来の確定である。

予言が行われた時点でこの世全ての現象は、確率は収束し、攪拌され

定められた未来へとその形を変えて行く。

 

故に、世の行く末を定める「予言」が出来る者は

紛れもなく神域に近い存在であるという事が出来る。

実際、開祖を「預言者」とする宗教もある程だ。

 

今日紹介する妖怪「件(クダン)」、その根本的な特徴は

凶事を予言し、時にはその対策を人間に与える事である。

 

先述の理屈を流用するならば、この妖怪は化生と言うよりは

神に近い存在、或いは神そのものという事になるのではないだろうか。

 

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人と牛を合わせて「件」漢和辞典曰くこの漢字は

人や牛を個々の物として数えるために造られたものだそうだ。

(用事などを1件、2件と数えるように元々数量単位としての役割があった)

 

この妖怪は、その漢字を元にして

「件やから人と牛をくっつけたったでwwwwwwww」

みたいな悪乗りで描かれたような見た目をしている。

 

現代だったら #一番目と二番目にリプされたものを合体させる

みたいなハッシュタグで件に近しい物が作られるのだろう。

 

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この妖怪は牛や鳥などの動物の子供として生まれる。

姿形はおおよそ「親となった動物の身体+人の顔」である。

その後、飢饉などの凶事やその年の農業の成否などの予言を残してすぐに死ぬ。 

 

江戸時代終期に最初に確認された件は疫病の予言を行ったが、それに加えて

「自分の姿を書き写した紙を持っていれば難を逃れられる」とも言ったらしい。

 

面白い事に、それから10~20年後に現れる

「アマビエ」という妖怪も、疫病の予言を残し

逃れたかったら自分の姿を描いたものを人々に見せるように言ったという。

 

ここまで類似点がある二つの妖怪には縁を感じずにはいられない。

調べてみた所、アマビエは人魚ーーつまり、人面魚身の妖怪であるという事だが…

この妖怪は、魚から生まれた件なのではないだろうか。

 

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前述した通り、私はこの妖怪を非常に神に近い存在

というより「落ち目の土着神による決死の営業活動」なのではないかと考えている。

 

というのも、行動が不可解なようで妙な一貫性があるのだ。

 

件がもし100%純粋な妖怪ならば、災害が来ることを教え

わざわざその解決法を人間に提示するだろうか。

それも、村娘を捧げさせるなど犠牲や対価を強いる方法ではなく

自分の絵を飾らせる、広める、言う事をきかせるという独特な解決法で、である。

 

故に私は、件の本当の目的は「人間に信仰されること」ではないかと考える。

凶事の来襲を伝え、その対策として自らの肖像を広めさせる。

それで予言が当たり、肖像を持つ者たちが助かったなら

その者たちからの件への信仰心は間違いなく盤石なものになるだろう。

何人もの敬虔な信者を一気に囲い込む事が出来るのである。 

 

人間を助ける事が主目的ではなく、助かるために行わせる行為そのものが

件の信仰を広めるための方法であり、件の目的なのだ。効率厨である。

 

信仰を失った神は力を弱め、誰の記憶からも消えていく。

それを防ぐため信仰が少ない神は件として現世に一瞬だけ関与し

予言と対策を人間に与えて信者を増やしていくのではないだろうか。

 

自我がない生まれる前の動物の赤子に取り憑くのも

「件制度」に頼らざるを得ない神の

力の弱まりを現したものなのかもしれない。

 

神様業界も営業力が必要な時代なのだろうか。

もしそうならば、方法のなりふり構わなさに悲しみを禁じ得ない。