えぼぐの神様N

キジムナー ―奇妙な同居人― ( 北陸オカルト会:妖怪解説 )

普通の概念というものは、人がそれまでの年月で得た知識の平均値から構築される。
多くの知識を取り入れる度に、その「普通」の輪郭はより盤石なものになる。
 
思うに、昔は今と比べて普通の概念がはっきりしていなかったのではなかろうか。
インターネットも、本すらもない(或いは読めない)
得られる知識が少ない中で普通の概念が不明瞭だったからこそ、
先人は妖怪という曖昧な存在を自らの普通に落とし込み
時には敵対し、時には共同生活を送っていたのだろう。
 
今日紹介する「キジムナー」は正に後者、
長年人と寄り添い、共同生活を送ってきた妖怪である。
 
キジムナーは沖縄県の妖怪で、ガジュマルの木に住むとされる精霊である。
妖怪と精霊どっちなんだよ、という声が聞こえてきそうだが
思うにこの二つは「サッカー選手」と「フォワード」や
「晩御飯」と「卵焼き」のようなもので、
近くにあるが個別のカテゴリーだと思われる。
 

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水木しげる氏のキジムナー

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北海道のコロポックルや山中の天狗など、
妖怪の中には先住民や外国人などの異人種が
モデルとなっているのではないかと言われている者もいる。
 
個人的にはこのキジムナーもそういった
「異人種系」の妖怪なのではないかと考えている。
何故なら、生活様式があまりにも人間と酷似しているのである。
 
キジムナーは、その背丈は子供のように低いものの
人間と同じように家族やコミュニティを作るという。
 
更に人間と一緒に漁を行うなど交流も深く、
中には人間の所に嫁ぐキジムナーもいるとされている。
 
妖怪が人間の女性を花嫁として攫って行く、
というのは神話の時代からあるよくある話だ。
 
しかしその逆、人間に化けたキツネ、などではなく
ありのままの姿で妖怪が嫁いでくるというのは非常に珍しいケースだろう。
 
毎年、年末を人間と一緒に過ごすキジムナーもいるようだ
これもう親戚くらいの近さにいるよね…。
 
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しかし、キジムナーは特定の物を極端に嫌い
それを使い自分を嫌な目に合わせるような輩がいれば
乗った船を沈めるわ、謎の熱病で死に至らしめるわ
過剰防衛とも言える徹底的な復讐を行う妖怪らしい一面も持ち合わせている。
 
その「嫌いな物」とはすなわち
タコ、ニワトリ、熱い鍋蓋、そしてである。…屁?
 
生理現象は勘弁してヨ…。
 
年末、キジムナーと一緒にガキ使でも見ながら年を越している最中
不意に出る屁、凍り付くお茶の間、始まる死へのタイムリミット。
 
幾ら人間と寄り添ってくれる妖怪だとしても余りに不寛容過ぎる。
キジムナーと結婚した男はさぞ息苦しい一生を送ったのではなかろうか。
寝ながらの放屁で命を落とした可能性が非常に高いと推測される)
 
結局、彼らが妖怪なのか先住民なのかは伝承からは掴めなかった。
先住民を差別するため。または、村人が先住民に不意に近寄らないように
妖怪じみた噂を流したものとすれば納得できるかもしれない…少し無理矢理か。
 
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なお、この記事を書く前の下準備として
キジムナーを先住民とする説がないか調べていた所
人種差別思想と右翼思想と陰謀論を混ぜ合わせた
THE ネット社会の闇 みたいなサイトが出て来た。
 
キジムナーを先住民とする説は間違いなのだろうか。
トライアンドエラーの繰り返しの中で摩耗しながらそんなことを考えた。