元興寺 ―妖怪の祖、悲惨なる末路― ( 北陸オカルト会:妖怪解説 )
「来る」という映画がある。
2015年日本ホラー小説大賞を獲得した
「ぼぎわん」という作品を岡田准一主演で映画化した作品である。
劇中には、子供を攫って行く怪物の正体の候補として
本日紹介する妖怪―――元興寺の名前が出てきた。
この妖怪、元興寺と書いて「がごぜ」と呼ぶ。
多分このタイトルの映画DVDが出たら
頭文字Dを「か」の段から探そうとするように
「け」の段から探そうとする人が続出するだろう。
元興寺は日本霊異記、つまり平安時代までその歴史を遡る妖怪であり
濁点が名前にいっぱいついてて強そうである、ゴギガガガギゴみたいな。
そもそも「元興寺」というのは妖怪界のDQNネームというわけでなく
本来はこの妖怪が住み着いた寺の名前である。
さあ、ここまで元興寺という文字は何度出て来たでしょうか。
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先述の通り悪行の限りを尽くしていた元興寺だが、
最後には雷神の加護を受けた怪力の子供に待ち伏せされて捕まり、
夜中から夜明けまで引きずり回された挙句髪を頭皮ごと引き剥がされる
という何もそこまでしなくても…みたいな撃退方法をされている。
雷神の加護を受けている割にはやたらえげつない子に育ったものだ。
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このように、伝承の中の元興寺は霊鬼としての固有の名前も持たず
いきなり現れた子供に引くほどボコボコにされる、ある種ぱっとしない存在である。
しかし、ぼぎわんを始めとして近年の創作などを見ていると
同名の漫画が存在するなど元興寺という妖怪を取り扱ったものは
比較的多く、知名度の高さを感じさせられる。
何故、寺に住み着いた一妖怪がここまでの知名度を持ったのか。
やはり濁点が多くて強そうだからなのか…。
その理由として有力なのが、日本各地では怪物や妖怪などの存在を
総称して元興寺と呼ぶ地方が点在していたという説である。
不思議な事象、人を襲う化け物、それら全てを元興寺と呼んでいれば
当時、元興寺の噂は人々の間を飛び交っただろう。
あそこの村で元興寺が子供を攫った、
此方の村では嫁っこがいなくなった、きっと元興寺の仕業だ。
こうした話が繰り返されていけば、元興寺の名前が独り歩きし
業績に比べて過剰な知名度を誇っていてもおかしくはない。
その出典は他の妖怪たちよりも比較的古い。
「元興寺の仕業」で対応しきれなくなった怪異や現象が
各々の妖怪に分岐していったのかと思うと非常に趣深く感じる。