うわん ―人と妖怪の境界線― ( 北陸オカルト会:妖怪解説 )
説話が人の間に語り継がれていく中で、情報が摩耗し
当初の話とは全く違うモノが形成されていく事がある。
口裂け女などはその一例で、
私、きれい?と問いかける、ポマードという言葉に弱い、
犬が苦手、べっこう飴が好物、メインウェポンはハサミ、
テレポートを使う、火を噴く、手足が伸びる、実は3姉妹だ。
などなど、情報をかき集めれば
キャラを盛りすぎたギャルゲのヒロインのような有様である。
この内どれが一次ソース、つまり発端者が見たか、
或いは作った情報なのか我々には判断ができない。
うわんは、そうした都市伝説的な性質の真逆にいそうな妖怪である。
江戸時代、うわんを見た人間は、もしかしたら
「火を噴く妖怪で、古寺に近付く人間を襲う猛者!名前はうわん鬼というのだ!」
と周囲に触れ回ったのかもしれない。
しかし、村から村の伝言ゲームの中で話は摩耗し
最終的に当時の妖怪文化の記録者である
妖怪画師(佐脇嵩之や鳥山石燕)などの耳には、
「なんか、うわん みたいな名前の奴が寺にいるらしいよ」
ぐらいの情報しか入ってこなかったのだろう。
この妖怪には解説文はなく、
上記の絵と「うわん」という文字しか記載されていない。
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うわんの伝承などは1970~90年代の記録書に一応は存在する。
青森県では、うわんが取り憑いた古い屋敷を買った主人が
毎晩毎晩謎の大声に悩まされてしまった、だとか。
古びた寺の近くに表れて、うわん!と人を驚かし
驚いた人間の魂を奪い去ってしまうとか。
しかし、古寺の方は「うわん」とそのまま言い返されると
きゃってびっくりしちゃって逃げるらしい、かわいい。
しかし、いずれも出典先が明らかになっておらず
作者の創作した怪談であろうと言われている。
(繰り返し言うが「うわん」という文字と絵しか記録が見つかっていないため、
出典先を明らかにする事が出来たら、うわん学の権威になれるであろう)
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個人的な意見だが、山の獣を殺しすぎると復讐しに来たり
きちんと神として祀らないと危害を加えたりする
ある種の「人間的なロジックのある妖怪」より
うわんのような「マジで話の通じなさそうな妖怪」の方が
実在していそうだし何か怖いイメージがある。(曖昧)
そもそも、怪異である妖怪を人間の理屈に閉じ込めて考える
というのは余りにも傲慢な考え方ではないだろうか。
うわんは、怪異に目的や理由をつけヒトの理屈に
落とし込もうといった風潮に警鐘を鳴らすべく
妖怪画師が示し合わせをして敢えて何の説明も載せなかった
そう考えると、納得が行くような気がする。