えぼぐの神様N

小豆洗い ―橋下に響く異音の怪異― ( 北陸オカルト会:妖怪解説 )

―――――ショキショキ、ショキショキ

夜の河原に異音が響く、小石が互いに擦れ合うような無機質な音だ。

音はどうやら橋の下から聞こえるようだが、上からだと暗がりでよく見えない。

そも時刻はすでに丑三つ時、こんな時間に人間が橋下の暗がりにいるわけがない。

いるとしたらそれは…そこまで考えが及んだ所で声が聞こえた。

 

獣の声ではない、意味のある言葉の羅列だ。

然しその声色は明らかに人間が発する音では無かった。

 

「小豆洗おうか、人とって食おうか」

 

動物の呻き声を無理矢理人間の声に捻じ曲げたような歪な声色。

そう、その主こそが妖怪「小豆洗い」である。

 

 

------------------------

 

「夜の河原に何やら小豆を研ぐ音が聞こえる」というのがこの妖怪の持つ根本的な特徴であり、その正体は観測されないことが多い。

 

しかし、観測された小豆洗いの正体もキツネ(岡山県)やイタチ(新潟県)、タヌキ(京都府)にカエル(福島県)、虫(長野県)、果ては人間の幽霊(新潟県)など地域によって見事にバラバラであり、妖怪の間で空前の小豆洗濯ブームが起きていない限りは小豆洗いを本当に見た人間など只の一人もいないのではないか、というのが個人的な意見である。

 

ここまでバラバラだと、その当時人を化かす、害を為すとされていた物が地域によってどのように違うかを逆算する事すら出来るのではないかと考える。

 

正体不明の異音の怪異は後世に地域性を教える教材となったのだ。

 

------------------------

 

ちなみに有名な「小豆洗おうか、人取って食おうか」は

岡山県でのみ伝わる小豆洗いの伝承である。

 

恐らく日本でも随一の狂暴な小豆洗いが岡山に配置されたのであろう。

「小豆を洗おうか、人を取って食おうか」というのも

好戦的な彼らしさを現したエッジが効いた二択である。

 

「今日のご飯は何にする?ハンバーグ?ねり消し?」

 

質問の程度としてはこんなものであろう。

 

------------------------

 

調べる内に「小豆洗いがなぜ小豆を洗うのか」という疑問が生まれたが、

自分が探した限りでは特にこれ!と言ったような情報は得られなかった。

 

それなればと自分で想像を巡らせても全くピンと来ない。

ひとしきり考え終わった後、ふと考えた。

 

「あれは本当に小豆なのだろうか?」

 

イスラム教の説話では川で魂の穢れを落とし、病気を治したという話がある。

実は小豆洗いは神の使いであり、死者の魂を川で清めた後

天へと還しているのではなかろうか。

 

この線は行ける、類似意見があるかどうか調べよう!

そう思ってググってみた所、

 

我々の汚れた魂を洗ってくれる!

星の使者「小豆洗い」を呼ぶパワーストーン(¥16,200)

 

を売ってくれる通販サイトしか見当たらなかった。

新たな説を立てるにはトライアンドエラーが肝要である。

 

これにめげず、勉強を続けていきたい。